Brillia Art
アーティスト/中山 ダイスケ

グランドエントランスの絵画

Brillia 有明 Sky Tower

Brillia 有明 Sky Towerのグランドエントランスには、高さ6mほどの大きな絵画が設置されています。人々が日々行き交うこの場所にアートを配した背景とは。作品に込められた想い、アートと暮らしの関係性などについて、制作者であるアーティストの中山ダイスケさんと、本物件のプロジェクトを担当した東京建物の遠藤崇が語り合います。

アーティスト&開発担当者 対談

マンションは街であり、
時間である。
だからこそ、ずっとそばにいられる
アートを意識した。

グランドエントランスとラウンジに
中山氏のアート作品が設置されたきっかけとは

東京建物株式会社 
住宅エンジニアリング部
部長 遠藤 崇

遠藤 Brillia 有明 Sky Towerにおける主な共用空間のデザインを担当してくださったデザイナーの森田恭通さんが、アートと一体化した空間にしたいという意図をお持ちで、随所にさまざまなアートを設置することになりました。共用空間のデザインコンセプトは「モダンミュージアム」。このコンセプトを作り上げていく過程から中山さんにもご参加いただきました。

中山 当初、お話をお聞きして、プロジェクトの進め方がとてもおもしろいなと思いました。というのも、以前はアートと建物の関係といえば、「後から」のケースがほとんどだったのです。既にコンセプトはあり、建物を造っていくなかで「ここにモニュメントがほしいから彫刻家にオーダーしよう」とか、あるいは一部の造作だけを装飾的にするといった進め方が一般的でした。それが本物件は計画段階からすでにアートを取り入れることが決まっていて、そこに新しさを感じました。

遠藤 デザインを指揮された森田さんから、こんなものを描いてほしいといったリクエストはあったのでしょうか?

中山 住む人のストーリーを東京建物さんが考え、森田さんは映画監督のような役割でアーティストをキャスティングしていかれたと思うのですが、「何を描いてほしい」というのは実はなかったんです。比較的若い世代が暮らし、この住まいを拠点に国内外いろいろなところで仕事をしている…そんなストーリーがあって、「それならどんな絵があるといいでしょうね?」と、謎かけのようにお願いされました。

遠藤 マンションの共用空間のアートは、プライベートな空間のアートとは少し異なると思うのですが、モチーフに木を選ばれたのはなぜだったのですか?

中山 様々な世代の人が日常的に目にするものですから、嫌だと感じるものには当然したくない。自然の風景、木なら、モチーフとして誰にでも親しみを持っていただけるだろうと考えました。大きな木がエントランスでみなさまをお出迎えするのはどうかなと思い、実は本物の木を置くアイデアもあったのです。でも、エントランスのあの場所に大きな額縁を置くことを森田さんはとても大切にされていたので、絵画というかたちになりました。

中山ダイスケ/アーティスト、アートディレクター。東北芸術工科大学学長。株式会社ダイコン代表取締役社長。1968年香川県生まれ。武蔵野美術大学中退後、現代美術作家として活躍。97年からニューヨークを拠点に活動。デザイン分野では舞台美術、ファッションショー、店舗や空間、商品や地域のプロジェクトデザイン、コンセプト提案などを手がける

さまざまな驚きと示唆を感じさせる、
数字で描かれた大きな木

遠藤 作品を後から搬入するのではなく、まさに今飾られているあの場所で実際に描き、完成させてくださいましたね。当時も新しさを感じましたが、今でもなかなかそのようなことはできないと思うほど新鮮な取り組みだったと思います。

中山 そうでしたね、スタッフ2人と僕との3人体制で毎日あの場所に通いましたね。当時、数字だけで絵を描くことをしていて、森田さんもその作品を見て声をかけてくださったので、こちらの木の絵も数字で描いていきました。おおよその構図を決めたら、あとはひたすら数字を絵の具で塗っていく。やりすぎないように確認しながらゆっくり進めていくと、徐々にピントが合ってきます。制作時は照明を図面でしか確認していなかったので、明かりが灯った時にどのように見えるのかということも、意識しながら仕上げていきました。

遠藤 中山さんが制作されているそばを、気を散らすことのないようにそっと通りすがって見ていましたけれど、いざ完成した作品を見た時はもう…しばらく感動でした。印象画に見えて、近づいていくと数字がスタンプされているなんて、本当に驚きの世界です。「そうか、たしかに自然現象は砕いていけば粒子になるな」と、そんな示唆さえも感じる奥深い作品です。

中山 絵画の正面の床にシャンデリアが置かれることが決まっていたので、下から光を受けた時、見上げた木がどう見えるかも結構考えました。額縁から照らされた光も、とてもよい感じに絵と調和していますよね。

遠藤 そうですね、照明との関係も素晴らしくて、木がまるで木漏れ日のように輝いて見えます。お住まいのみなさまがこうしたアートをどう見て、何を感じていらっしゃるのか、想像するとわくわくします。

中山 意地悪な意味ではなく、ただ「幸せそうな絵」ではないものにしたかった気持ちもあります。見る人、見る時の気分などによって、いろいろな捉え方ができる絵になればいいなと思っています。もしかすると、これが数字で描かれていることに何年も気づかない人もいるかもしれないし、近づいて数字だとわかって「これってうそなのか?」なんて思う人もいるかもしれない。そんなふうに、さまざまな驚きが生まれるといいなと思います。

遠藤 33階のオールデイラウンジの天井にも、中山さんは絵を描いてくださいました。

中山 ラウンジの作品は描いたものをプリントしたもので、このバーカウンターに座って見上げた夜空そのものを、数字で表現しています。夜景がとてもきれいな場所なので、ラウンジの作品は完全に夜のシーンに鑑賞されることを想定して制作しました。

共用空間のアートが、個人の暮らしに
アートを取り入れるイントロに

遠藤 本物件には子育て世帯もとても多いのですが、このマンションで生まれ育った子どもたちが、たとえば学校を卒業する、結婚するなどの節目に、エントランスの大階段で記念撮影をした時、いつもあの絵画が共にあるというのは素敵だなと想像しています。

中山 マンションって、街であり時間でもありますよね。作品に取り組む際も、この絵が何年ぐらいここに存在するのか、ということは気にしました。どちらかというと少し先の未来、子どもがここから巣立っていった、子育て後のお父さんお母さんのしっとりとした時間を想像した面はあります。今だけ新しいと感じるようなアートではなく、ずっとそばにいられるアートというものを意識しましたね。

遠藤 マンションのような大きな建造物は頑強である必要がありますから、どうしても硬質的で直線的で、ひんやりとした特徴にならざるを得ません。そんな空間に潤いをもたらす手段として、アートはとても重要です。もちろん何でもいいわけではなくて、多くの人の心を動かすような力があるアート、想いのあるアート…そういったアートが朝出かける時、「ただいま」と帰った時、疲れている時、毎日の暮らしのいろんなシーンに現れるというのは、やはり豊かなことではないかと思います。

中山 振り返れば、このBrillia 有明 Sky Towerができた時期は、ちょうどアートと住まいの関係が変わり目の時期でもあったと思います。一般の方たちが家のデザインにこだわり始め、きちんと自分の気に入ったもので住まいを作っていきたいんだ、という潮流が起きていた。明かりや器にこだわり、その後がアート。今は家庭でアートを購入するのも珍しいことではなくなってきています。

遠藤 マンションができて10年経ちましたが、時々ここを訪れ、中山さんの大きな絵画の前で住人のみなさまがくつろいでいらっしゃったり、子どもたちが楽しそうに過ごしている様子を目にすると、なんだか素敵だなとしみじみ思います。

中山 作品から何か刺激を受けて、ご自身のお住まい、居住空間のなかにもアートを取り入れてもらえたらいいですよね。共用空間のアートが、そのためのイントロのような存在になっていけば嬉しいなと思います。

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