豊かな自然に恵まれた暮らしやすさと都市の利便性の高さで、子育て世代を中心に人気を集めている街・立川。JR立川駅北口から徒歩5分という希少な立地に完成した〈Brillia 立川〉の大きな魅力が、自然を感じる空間のデザインと、共用部を彩るアート作品です。 今回、みずみずしい感性から生み出された作品の作り手、陶芸家・アーティストの加藤花楓さんと、空間設計を担当した一級建築士の水谷雅文さんをお招きし、創作や作品・作家選定にまつわるエピソード、アートが暮らしにもたらすものなどについてお伺いしました。
〈Brillia 立川〉に作品の導入が決定した当時は、まだ多摩美術大学の学生だったという加藤さん。水谷さんや尾崎さんとの出会いは、大学で2024年11月に開催された芸術祭がきっかけと伺いました。
尾崎 今回〈Brillia 立川〉のゲストサロン・モデルルームのインテリアコーディネートをお願いした水谷さんは、多摩美術大学で教鞭をとられる先生でもいらっしゃるので、芸術祭の会期中にお伺いしたのです。
〈Brillia 立川〉の周辺エリアは、アートが街に溶け込み、文化的な成熟度の高い場所と言えます。隣接する商業施設「ファーレ立川」には、世界36か国・92名の作家が手がけたパブリックアートが、なんと100点以上も展示されています。私どもの〈Brillia 立川〉が、そこに加わる新たなパブリックアートのようであったらとも考え、館内に展示する作品の選定は重要でした。
水谷 アート作品や美術作家の表現は、建築や空間の設計、デザインだけではたどり着けない領域のクリエイティブだと考えています。私は大学で建築学科の学生たちに教えていますので、今回、工芸学科にいらした加藤さんとの偶然の出会い、そしてお仕事でコラボレーションできたことからは、私自身も新しい気づきが得られました。
急に声がかかった加藤さんは、さぞ驚かれたことと思います。
加藤 はい、企業の方からのお仕事のお話をいただくのも初めてでしたので。と同時に緊張も走りました。さまざまな方が利用するマンション内の共用部という公共空間に、どんな作品ならフィットするのだろうと考えました。
尾崎 そうでしたか。確かに当初はオリジナルで制作いただくつもりでしたが、加藤さんとお話ししながらこれまでの作品群を拝見していくうち、こちらのシリーズ作品が、コンセプトも含めて物件にマッチしていたので選定することに決めました。
このシリーズ作品のテーマ、また、ご自身の創作のコンセプトや、大切にされていることを教えてください。
加藤 私は、日常で目にする自然のなにげない情景を表現できたらと考えて制作しています。例えば、寒い冬の朝、車に霜がおりている様子、氷の結晶といった、本当になにげないものからイメージしています。使っている素材は土で、陶、つまり「やきもの」の作品です。
こちらに展示されている作品を含め、5点からなるシリーズの作品名は「雨」です。
水溜まりにビルの光が反射したり、夕立の空に浮かぶ雲が墨汁っぽくなったり、雨水が流れるような動きを表現したりと、ふと目にした景色を抽象的に表現しています。見ていただく方に、きれいだな、と心が動く瞬間を連想してもらえたらいいなと思います。
鑑賞者それぞれに、多様な風景をイメージできそうなところが魅力であり、暮らしの空間に置く作品としてもぴったりですね。
尾崎 はい、加藤さんから使っている素材や創作の背景について聞けば聞くほど、偶然にも「繋緑(けいりょく)の結節点」という〈Brillia 立川〉のコンセプトと親和性が高くて驚きました。
水谷 作品としても純粋に綺麗だなと思いましたね。そして、加藤さんという感性のフィルターを通して、自然の風景を、見事に造形へと落とし込んで表現しています。
〈Brillia 立川〉の空間設計には、「バイオフィリックデザイン」の考え方も取り入れたと伺いました。植物や自然光、水など、自然を感じる要素を取り入れたデザインのことですが、いま多くの方が日常生活の空間に自然を感じられるものを求めているのでしょうか。
尾崎 コロナ禍を経てより一層、注目度が上がったかもしれませんね。植物がもたらす日々の癒しも、アートと暮らして心が踊るような魅力も。
水谷 そうですね。〈Brillia 立川〉ですと例えば、専有部分のリビングに用いた、落ち着いたテラコッタカラーの壁面は、まさに自然由来の色です。また、曲線を取り入れたデザインや、視界が広がるような収納棚の斜めのラインといったディテールも、昭和記念公園やけやき通りなど、緑と文化が豊かな立川の街で暮らしたい、と思う方々にフィットするのではと考えて設計しています。
専有部分には植物だけではなく、立体作品を飾って楽しむこともできそうなスペースもあり、普段の暮らしの中にアートを取り入れやすいと感じました。
アートと共に暮らすマンションの魅力について、作家である加藤さんご自身はどうお考えでしょうか。
加藤 アートを設置することは、「おもてなし」や「気遣い」と言えるのではないでしょうか。
作品を日常的に目にすることで、新たな発見や刺激になったり気分が上がったりするでしょうし、作品を介してコミュニケーションが生まれ、人と人とのつながりもはぐぐまれ、いずれ心の豊かさへも寄与できたらと、作り手として願っています。
尾崎 「おもてなし」や「気遣い」という視点は、加藤さんの繊細で優しさにあふれた人となりが伝わってくるようです。物件に寄り添っていろいろと考えてくれていてとても素敵ですね。
水谷 このような彼女の姿勢や考え方が、会話の中や作品からも伝わってきて、僕らも大いに共感しました。結果的に今回は既存の作品を展示しましたが、いずれはコミッションワークを依頼する機会がつくれたら良いなと考えています。
加藤さんは、今春卒業をむかえ、今後は教員の仕事をしながら創作活動を続けていくそうですが、作品を作り続けることは、ある種の才能と言えるほど難しいもの。若手の美術作家の方々が、長期的に作品を設置できるチャンスが増え、新たに活躍する方が生まれたら楽しいですよね。未来の可能性に満ちた取り組みだと思います。
いま世の中も少しずつですが、名前や肩書きではなく、良い作品やものづくり、活動を誠実に続けている人をできるだけフラットな視点で認めていこう、という姿勢に変わりつつあります。
尾崎 そうですね、我々はアートギャラリーのスペースを運営するなど、アートへの取り組みを積極的に行っていますので、作品や作家の方々とのコミュニケーションには、フラットな視点を持ち続けていきたいです。そして、理解できる「目」、まさに目利きの力を磨かなければと思います。
私は今回、大学の芸術祭へ伺ってみて、彼らの表現がもつパワーに驚きましたし、「学生だから」「プロの作家だから」という見方や考えは不要だなと個人的に感じました。
小さな子どもたちも、小学生も中学生も、素晴らしい表現力を持っているでしょうし、年齢を問わずいろんな方々が「アーティスト」として活躍していけたら良いですよね。
水谷 はい。我々建築家は、日常における「非日常」は演出できますが、そこから飛躍させた「脱日常」は、アートやアーティストが成せる領域です。ここに暮らす方にとっても、我々や作家の方々にとっても、「三方よし」の関係性を続けていきながら、アートの魅力が日常へと自然に浸透していく空間を、これからもともにつくっていきたいですね。