現在、東京藝術大学と
BAG-Brillia Art Gallery-の連携企画として、
「クラムボンっておぼえてる?
−アート・くらし・デザイン−」展を開催中。
空間デザイン・立体造形などを通じて
「豊かな暮らし」を探求する、
デザイン科第9研究室の教授、
学生、卒業生らによる作品を展示しています。
研究室を率いる橋本和幸教授と、
同研究室の卒業生で本展の空間構成を手がける
デザイナー・アーティストの進藤篤氏に、
本展の見どころなどをお聞きしました。
―最初に、今回の展示に至った経緯を教えてください。
橋本 今年の春にうちの研究室の展覧会をやった時に、BAGの企画監修をされている坂本浩章さん(彫刻の森芸術文化財団)がいらして、今回のお話をいただいたんです。僕もここの場所ってよく知っていて、すてきな所だと思っていたので、研究室のメンバーに声をかけました。
実は、坂本さんとは友人で、彼とは浪人中に美術研究所で出会って、一緒に絵の勉強をしていたんですよ。そこに当時高校三年生だったミナ ペルホネンの皆川 明さんもいて、その縁で、今回は彼とコラボレーションした作品も展示しています。
進藤 前回の展覧会は表参道のギャラリーで開催していて、今回はその第二弾という形ですね。出展メンバーはその時と一部入れ替わってはいるのですが、このシリーズは定点観測的なものというか、作品から作家の成長や今考えていることが見える機会にもなっているのかなと思います。
橋本 進藤さんには展示構成をやってもらおうと思って、最初に声をかけたかな。彼は今、インテリアデザイナーとして企業で活躍していますが、個人の活動として、先日も「DESIGNART TOKYO 2023」という大きなイベントでメイン会場の空間構成を担当しているんですよ。今回のメンバーもみんな個性があって、それを短期間でまとめないといけないんだけど、進藤さんならできるだろうなと。
進藤 多種多様な表現の作品が集まった展示なので、作家さんの個性がしっかり引き立つように空間を柔らかく仕切ることが一番重要だと考えました。かつ、「+1」「+2」という二つのゾーンに分かれた空間を生かすこと。その上で、「暮らしとアート」というテーマに寄り添う形で作品のレイアウトを検討していきました。
―白いカーテンで空間を緩やかに仕切る展示構成が印象的ですが、どのように着想されたのでしょう?
進藤 今回はフジエテキスタイルさんに協賛していただき、布を用いて空間にまとまりを出しつつ、ゾーン分けすることを考えました。なぜカーテンになったかというと、アートってすごく特別なもののように感じるのですが、実はちょっと見方を変えたり、きっかけがあったりすると途端に身近なものになる、そういう存在だと思っていて。私たちの暮らしで身近な要素であるカーテンが、展示空間の中、作品のすぐそばに存在することで、「アートって実は私たちのすぐ近くに存在しているかもしれないよ?」と伝えられたら、と思いました。
橋本 カーテンって必ず生活空間にあるわけですよね。僕はインテリアデザイナーをやっていたんですが、カーテンのない空間って案外締まらなかったりするんですよ。アートも同じで、絵があるかないかで壁の表情が変わる。だからアートもカーテンも家具も全部同列だなと思っていて、一緒の空間に置くことでそれが表現できたらいいなと。
本展の副題を「アート・くらし・デザイン」としたんですが、実は順番にこだわっていて、暮らしが真ん中にあるんだっていうメッセージを込めています。暮らしとアートやデザインをつなぐ「・(ドット)」の役割を担うのがカーテンだったり。
進藤 そうですね。実は今回の展示では、カーテンをまとめるタッセルが作家のクレジットになっていたり、ちょっとした所に細かな仕掛けが隠れているので、そういった小さな気づきも楽しんでいただけたらと思います。
―出展者は内外で評価されて活躍されている方も多いですね。デザイン科第9研究室にはどのような特徴があるのでしょうか?
進藤 この研究室にはアートやデザインといった領域にこだわらず、なんなら既成概念とは全く違う新領域を開拓しようとしているような人たちがたくさんいるのかなと思います。みなさん、例えば、空間とかファッションとか食べ物とかジャンルを限定せず、横断する姿勢でものづくりをされていますね。
扱う素材も、ちょっと前まで木を使っていたかと思えば、今度は全く違った素材で作品をつくっているとか。それぞれに振り幅があるし、そういった人たちが集まっているからこそ生まれる、さまざまな個性の「中間領域」の面白さみたいなものが、この空間には表れているのだと思います。
橋本 OB・OGには就職した人もいれば、フリーでアーティストとして活動している人もいるんだけど、どっちがいてもよくて。僕らは芸術大学のデザイン科であって、工学部のデザイン科じゃない。やっぱり軸はアートなんです。だから、ここに集まっている人はアーティストにもデザイナーにもなろう、全部やってやろうと思っているんじゃないかな。進藤さんはまさにそれを体現している。
進藤 橋本先生は基本的に「ノー」を言わない人なんです(笑)。「まずやってみなさい」と。そこがすごく私にとっては勉強になりました。「これはできないかもしれない」ではなくて、「なんだってやればできるだろう」から始める。この考え方が基本にあることで、今まで表現されていなかったような難しいものでも、まずはつくってみようと思える。そんな思想というか精神が、みんなに受け継がれているのだと思います。
―「暮らしとアート」がBAGのコンセプトです。本展のテーマでもありますが、暮らしとアートの関わりについて、お二人はどのように捉えていますか?
進藤 私は普段、インテリアデザイナーとして商業施設やオフィス、ホテルの設計をしているので、ある意味、日常や暮らしをつくる仕事がベースにあります。その上で、ふとした時に感じたことから、物事を違う形にして価値を変えたりだとか、驚きを加えるというようなことを、個人活動としてやっています。
アートと暮らしは非常に密接なものだと思っていて、例えば、今回展示されている私の作品「HAORI」は「光に羽織をかける」がコンセプトなのですが、自分が羽織を着た時に、なかなか普段の暮らしの中では着物を着る機会がないけれど、別の形で、例えば照明器具やインテリアオブジェだったら、この伝統文化を残していけるのでは?と思ったことから生まれました。常にインスピレーションの源は暮らしの中に存在していて、アウトプットの先もしっかり暮らしの中に据えるような考え方でいます。
橋本 僕はアートとデザインの中心に暮らしがあると。暮らしが先で、アートとデザインは暮らしを豊かにするためにある。今回の展示作品一つ一つの中にも、普通じゃないこと、普段見かけないものがあって、「あれっ?」ていう気づきが、暮らしの豊かさにつながると思っています。
僕の作品も木の廃材でつくった椅子なんだけど、色鉛筆で着彩しているんですよ。家具を色鉛筆で塗っていいんだ!みたいなこともある意味発見で。カーテンって部屋の真ん中につるしてもいいんだ!とかね。これもアートの要素の一つ。そういう視点で展示を見てもらうと発見があって楽しいかもしれないですね。