ビンや食器など日常生活からつながる清潔なの空間のなかで膨張していく塊が天井からの柔らかい力で形を変えていく。オフィス街のど真ん中のガラス張りのウィンドーのなかで突然動き出す物体への驚きとともに、2つのものの接触とその柔軟な対応が、なにか日々の人と人との関係性を思い出させ、感情や精神の動きにもつながる、そんな作品になっていると思います。
この作品は、私が制作する上で意識している「律動=リズム」の考え方に重なりを覚えた。繰り返し空気が注入されて上下する様は、脈拍のように時間を刻み、普段意識をしていない−呼吸−の動きに例えられて、「生きる」というメッセージを感じた。コロナ禍においてマスクで制限された息苦しさばかり気になっていたが、ユーモラスな表現で、今の状況をポジティブに生きることだと気付かされた。本作は小さな空間で表現されているが、できれば、作者が海外などで発表している、大空間の作品の中に身を置いて体験したいと思う。
ゆっくりとゆっくりと膨らんでいく時間は、ある種の瞑想に誘うようです。「半透明」という二項対立の間にあるものを用い、その両極を媒介することによって、様々な関係性の上に、私たちの暮らしがあり、不確かなグラデーションの中で生きていることに思いを巡らす作品であると思います。ガラスを通して東京と一体になれるユニークなギャラリースペースの特性を活かし、忙しい東京のオフィス街に一時的な静寂をもたらしてくれると思います。
ギャラリーに並んだ数多くの食器は、都市の景観のように見立てられており、その空間を包みこむように上下するビニール袋が都市の呼吸にも捉えることができる。天井から吊り下がった穀物は、我々が日々の糧に必要なものとして供給されては消化していく。コロナ禍において私たちの生活様式は変わり、新たな習慣と価値観が必要となってきたが、地球という大きな自然環境においてはこれまで通り、変化なく季節が移り変わり、動植物の生命の営みは続いている。「いわば変わったのは人間社会だけだった」と、この作品を通して気付かされた。