No.13
Brillia Art Award 2021作品・アーティスト紹介
- TITLE:
- Au fil du temps / ときを縫う
- CONCEPT:
- 「時のつながりや時代を越えて受け継がれること」を木と紐を使って表現している。
Au fil du tempsはフランス語で時の流れ、時の重なり、時を越えるという意味の熟語である。
Filは縫糸、縫う、Tempsは時間という単語が含まれている。
「時を超える」は、「時を縫う」なのだろうか?
木という素材は、時を経て成長した年輪がある。時の重なりと蓄積が見える。そこに穴を開ける。
その穴は、一気に時代をワープして、時を越えていく。
木を縫う。開けた穴に紐を縫っていく。その越えていった時をもう一度思い起こす。
時をワープした幾つもの穴を、下から上へと縫っていく紐は、過去、現在を何度も行き来している。
それは、私たちが、後悔して悲しんだり、想い出に浸ったり、過去に思いを馳せたりする日常に似ている。
刃物で穴を切っていく行為は男性的な面を持ち、針で縫う事は女性的である。その両面を持ち合わせ、できていく作品に人と人の関係性から生命が繋がっていく事をも感じる。
想いや祈りを込めて縫い上げることで、あらゆる時と繋がることは、今現在を生きていく方法を指し示してくれる様な気がする。
Brillia Art Award 2021大賞
審査員より:選出の理由
本作は、無数の枝に開かれた穴と、糸の関係は時の流れが表現されており、
さまざまな色と無作為に選ばれた形の枝には、多様性の社会を感じる。
この作品をからは、一本一本の枝が経験してきた季節や環境が、時の流れによって形成されており、
樹の一部だった頃に何を見てきたのだろうかと思いを馳せてしまう。
それは人の記憶の断片と重ねってしまい、自分の身体の一部が経験を重ねるたびに成長を重ねてきた日記のようでもある。
人社会だけではなく、自然の営みの中にも多くの物語があり、作者がそれらを紡ぐことによって作品が言霊を発して、それは終わりのない繋がりを表現しているの。この作品は、「縫う」と言う行為で現代社会にとって、またコロナ禍においても大切な関係性を見出してくれた。
以上の観点から、本作品を大賞とさせていただきました。
ARTIST PROFILE
柳 早苗 / Sanae Yanagi
- 2015年
- Unbekannte Wesen#2 / Super bien・ベルリン
- 2015年
- DANDANS Une nouvelle génération d'artistes japonais/ Gallery BOA・パリ
- 2016年
- 8éme Le Génie des jardins – Biennale Internationale d'Art Contemporain/
Square de la Roquette・パリ
- 2016年 - 2020年
- 10 YEAR END EXHIBITION OF MINI SCULPTURE / ギャラリーせいほう
- 2017年
- SHIBUYA AWARDS 渋谷芸術祭 / 渋谷駅構内
- 2019年
- Poissons Volants / アトリエ6b・パリ
- 2020年
- 15th TAGBOAT AWARD(グランプリ)/ 渋谷ヒカリエ CUBE1,2,3
- 2020年
- KAIKA TOKYO AWARD(ノミネート) / THE SHARE HOTELS KAIKA TOKYO
- 2020年
- IAG AWARDS 2020(C-DEPO賞) / 東京芸術劇場
- 2020年
- 個展 「オ・フィル・ドゥ・タン / ときを縫う」/ JINEN GALLERY
- 2020年
- 「Shapes of Element」 ART colours Vol.35 / Park Hotel Tokyo アトリウム
- 2021年
- Tagboat Art Fair 2021 / 東京都立産業貿易センター 浜松町館3F
- 2021年
- 美の精鋭たち2020+1 / 川口アトリア
ARTIST VOICE
Q:応募のきっかけは?
A:公募サイトで本展を知りました。立体、インスタレーションを制作する私にとって、空間を自由に使うことができることにモチベーションが上がりました。都市のビル街にあるウインドウ、仕事中の人達が多く行き来する場所であり、自然そのままの素材を用いた作品に向いていると思いました。日常的に通る場所である人たちにとってちょっと息抜きができる作品になることも挑戦の一つでもありました。
Q:どうやって企画を考えたのですか?
A:私の現在追求している制作スタイルは、“ 木を縫う” です。主に自然素材の木のディティールを活かして表現しています。約300本の枝から成る作品をどのように天井に吊るすかが最大のポイントでした。実験的展示を経て、この方法にたどり着きました。一点は一本の枝を用いて出来ています。木を縫っている紐は天井に繋がり、ビル全体へと繋がり隣のビルへと広がるようなイメージです。建物、天井を作品に取り込むように制作しました。吊っているシステムの部分にも紐を巻き色を持たせ、作品の一部へと取り込んだり、他に全体の表情のバリエーションを広げる為に枝の皮を剥いたり、表面を研いたり、ナイフで彫りだしたりしました。
Q:作品に込めた想いを教えてください。
A:都市の中における自然との出会いと再発見です。自然が排除された都市では現代抱えている環境問題と距離があるように思います。作品は、柳、桜、梅、藤、モチノキ、水木、松などの枝からできています。山で採取したり、剪定の時期に近所の方に譲ってもらったりした木たちです。それぞれの場所で育ち、いろんな時と経緯を経てこのウインドウに展示されています。見過ごされてしまいそうな枝たちの個性をなぞるように私は縫いました。色付けされた枝は、この中でそれぞれの色を放ってひとつになっています。通りすがる人達が普段忘れがちな自然と人間の関係について思い出すきっかけになることを願っています。
Q:実際に作品を完成させた感想をお聞かせください。
A:現場での設営が楽しかったです。いろんな周囲の状況の影響を受ける場所です。天候、ウインドウのガラスに映り込む周囲のビルや看板。日が陰り始めたる時にじわじわと変化していく作品の様子。夜になるとライトアップされ一際浮かび上がってくる作品。人の動きや足を止める人たちの目線。何ヶ月かこのプランについて考察してきましたが、設営の間に感じたことがたくさんあり、その場で決断したりプランを変更することもありました。アトリエに籠もり、さながら母さんが夜なべをして手袋編んでくれた…の歌のように制作しました。本当に私が作ったものだろうか、イメージと違うものができたのかもしれない、不思議な感覚があります。それは私の手を離れ、私と対峙して語り合う感覚が。なので、完成したものをすぐに言葉にできません。4ヶ月の展示期間に作品の見え方に新たな発見がありそうで、楽しみです。