Brillia Art
Brillia Art Award

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No.15 
Brillia Art Award 2022作品・アーティスト紹介

Brillia Art Award 2022大賞
TITLE:
この光の群れの中で
CONCEPT:
人々は、地球の中で、そしてこの社会の多くの繋がりの中で生きている。
この巨大な都市「東京」も、個としての存在が集合することで「東京」ができています。それぞれの存在は個別に全てを把握することはできませんが、確かに存在する個が、この街の様々な表情をつくり、常に変化させ続けているのです。
この場所に漂う、一枚の板に切込みが入った金属の集合体は、それぞれ重力によって、つまり「地球にまかせる」ことでかたちづくられます。さらに、建物内の空気の流れや、ガラス一枚向こうの、時間帯や季節などによっても変化する光や風、昼夜で変わる街の灯や人々の様子など都市の刻々と変わる状況が、この立体を変化させ続けます。また、これら立体個々におこる動きや表情の変化は、集団の中で互いに影響し合いさらなる変化となるのです。これら取り巻く環境全てが立体をかたちつくり、その変化は都市の一部として互いに影響しながら、この場所の景色となるのです。それぞれの集団にとって、“個”の変化はとても小さなものかもしれません。ただ、“それぞれ”は確かに存在し、それぞれの変化の連鎖が、この場所の景色をつくっていくための大切な一つなのです。
“ある”小さなきっかけから大きな変化が生まれる。その関係の連鎖がみせる情景が、この都市の、この社会の、この世界の変わりゆく景色に向き合うための、きっかけになる作品になればと思います。

協力:荒川技研工業株式会社
Brillia Art Award 2022大賞
審査員より:選出の理由

コロナ禍に入り2年以上の時が経つことで、コロナを恐れることから向き合う時期になり、まだまだ平常ではないが静まり返った街にも徐々に表情が戻ってきた。

本作品は、薄いステンレスが一つ一つ手で磨かれており、細いワイヤーで吊るされる展示風景は、重力に反し自然光と照明によって様々な光と影が幻想的に広がり、この数年間の時間のねじれや移り変わりを表現している。
それは昼夜を問わず、作品が生み出す自由な動きが都市の喧騒と環境に溶け込み、街の要素と作品のそれぞれが同調するかのように躍動して見えた。

以上のことから、社会と都市が、個の繋がりによって蘇りつつある“いま”をモチーフにした作品として、大賞作品とさせていただきました。

ARTIST PROFILE

四方 謙一 / Kenichi Shikata
幾何学や素材の特性で構成されるパターンに周囲の環境を取込み、
彫刻や写真作品などを制作している。
2007年
早稲田大学芸術学校建築設計科卒業
2018年
「GLOWING GROWING GROUND」大阪国際空港 常設(大阪)
2019年
「Collecting view in the well」第28回UBEビエンナーレ(宇部)
2020年
「Aesthetica Art Prize 2020」 “shortlisted” (York UK)
2020年
「Flowing time reflecting on the river」RAYARD MIYASHITA PARK 常設(東京)
2021年
「Gravity -この地を見つめる-」奥能登国際芸術祭2020+ (珠洲)

ARTIST VOICE

Q:応募のきっかけは?
A:アトリエをシェアしている友人から教えてもらいこのアワードを知りました。応募締め切りの頃、自然豊かな場所での芸術祭や、いわゆるホワイトキューブでの展示が続いていました。それとは逆で、この会場はガラス一枚隔ててはいますが、外部とほぼ直結した都市のど真ん中にあります。改めて、この巨大都市の中で作品を展示することを通し、個の存在とその集合について考えたいと思い応募しました。

Q:どうやって企画を考えたのですか?
A:以前からこの区画をよく通りかかってました。開発やコロナ禍の2年の影響なのか少し雰囲気が変わりましたが、昼はビジネス街の顔、夜はビルの狭間に飲み屋の灯りや人の賑わいを見せ、そしてまた朝がきて、、っというように時間帯で様々に表情が変わる、生き物のような東京の熱量をここでも感じていました。
この街に立ち、日中、喫煙所にいってみたり、飲んでみたり深夜を歩いてみたりすると、俯瞰してみていた都市の表情から、ここにいる人々や店や建物一つ一つなど、“個”の存在に目がいく。この存在こそが、この場所の熱量を生み、これらが関わり影響し合うことで、この街の様々な表情をつくっているのだということが理解できます。
この“個”の存在について、他の“個”や周りとがどのように関わっているか、それがこれからどのように繋がっていくかを考えることが、最初の作業でした。

Q:作品に込めた想いを教えてください。
A:この社会、都市、国同士であっても、これら集合には”個々”の存在があります。誰かから見ればとても小さな存在かもしれない。ですが、その小さなそれぞれの繋がりの連鎖が、この景色をつくる大切な一つであることを今一度考えたいと思います。
私は、作品を考えるとき、場所について、作品自体について、そしてそれらがどのように関わっていくかをじっくりと思考し試行するようにしています。それは普段から作品だけでなく、様々な“もの”や“事”はそれ単体で存在しないということ、それぞれの“個”が様々な状況の中で密接に関わることで全ての“個”は存在し、それが、この場所だけでなく広がるこの世界を繋げていくのだと考えているからです。

Q:実際に作品を完成させた感想をお聞かせください。
A:設営をしている最中、様々な時間でのそれぞれの立体の変化がみられました。やはりアトリエでこの作品をみているのとは異なり、この場所でしかない光や周囲の状況、時間や天候に応じて、朝や昼、夕暮れから夜、そして深夜までの様々な時間で、これらは表情を変え、景色の一部としてこの場所に影響を与えていました。他の項やコンセプトで述べたように、この作品は、金属板が単体で存在するわけではなく、それ以外の多くのものや時間の堆積、この場所の状況までもが作品の一部となっていること、ただ、そこには確実にそれぞれの“個”があることを改めて考えた時間であったし、これからもさらに考えていきたいと思っています。

EVALUATION

小山 登美夫
(小山登美夫ギャラリー代表 / 日本現代美術商協会代表理事)

今回の作品は、空間というものを最小限の行為で豊かにさせています。金属板にいれたスリットの脇のワイヤーが吊るされる場所をほんのちょっとずらしていくだけで無限の傾きと空間ができ、そこに宿る光もさまざまに表情を変えていく。ウインドーがあたかも光を生み出す装置のようになっていき、物質は宙に浮き、軽やかな魅力になっています。吊るすという展示自体は重力をつかいながらも、そこから逃れて自由になっていることが面白い。是非、さらに大きな空間での展示も今後見てみたいと思うアーティストです。

野老 朝雄
(美術家)

Lucio Fontana(1899-1968)のスリットはキャンバスとフレームのテンションから生まれ、四方謙一のスリットは重力から生まれる。1Gの元、吊るされる事で自重により現れてくる美しい歪みは上品な色気をも伴う。一枚一枚が群となる事で光は光と交錯し、生み出される影は刻々と様相を変えていく。我々は作品を体感する事で、作家の手のみが知り得ている“物質の潜在的な魅力”を知る事ができる。また、作品もさることながら、裏方である天井部の吊元も丁寧に工作されており、絵画と額、彫刻とペデスタル(台座)の様な関係は、空間に於いて重要なエレメントとなり、全てのディテールが相乗効果によってこの場の力を存分に引き出している。 私は近い将来、巨大な空間でこの無数の作品群が光を撒き散らし、ゆっくりと乱舞する光景を見てみたい。

坂本 浩章
(公益財団法人彫刻の森芸術文化財団 事業推進部 シニアマネージャー)

この作品を初めて見たとき、展示スペース全体が万華鏡のように、光の領域が屋外まで広がり、作品と空間全体に一体感を感じた。謎を解くように、パーツ一つ一つを考察すると、ステンレスの表面がヴァイブレーション仕上げで光の反射を適度に抑えており、スリットの周辺は丁寧に鏡面状に磨かれて反射を強調している。中央のスリットは複数のパターンで隆起していることで、平面的な三次元のテクスチャーと、立体的な表現の組み合わせが、この複雑な反射を生み出し、金属という物質に関わらず、光と造形によって重力を無視した空間が表現されているのだと気が付いた。
止められた空間と、慌ただしく映り込む世界とのギャップが、作品が交錯する日常を取り込むことで、時間軸の歪みの面白さを見るものに与えている。


EMPLOYEE QUESTIONNAIRE

コンセプトの中にある、確かに存在する個が、この街の様々な表情をつくり、常に変化させ続けているのです。その言葉を連想しながらアート作品を見て非常に引き込まれました。
個の小さな存在や力がやがて都市をかたちづくるという壮大なテーマを場所、サイズ感含め見事に馴染ませた作品だと感じました。
光の反射と立体的なデザインが印象に残りました。個が互いに反射しあい連鎖することで多様に変化していくというストーリーが、次世代の変化に対応していく当社の姿勢・個性ともマッチもしていて、このアートプロジェクトを他でない当社が実施している意義も表現されているようで、非常に納得感がありました。
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