及川さんの作品は、モザイクのガラスで覆われた造花です。格子状のモザイクの奥から花が見え隠れする。モザイクを通すことによって見える世界が違ってくる。そのアプローチが通りすぎる人を時折、ハッとさせ「見る」という行為を自覚させています。全体と部分、見えるものと見えないもの。そこに思いを馳せることにこの作品の魅力があるように思います。
ガラスの箱の中に入っているように見えるものは果たして花なのか?箱を開けたら何もないかもしれない。あるいはこちらを襲ってくる魔物かもしれないし、優しく心を癒してくれる花なのかもしれない。それは現代の不安定な世界を象徴しているようだ。普段、自分は物事の本質をしっかり見ているのだろうか?見る側の想像力が問われているようでもある。
ここ数年週末は北軽井沢の寂れた深い静寂の自然の中に籠り、音楽もつけずランプでひっそりと過ごしていると、いきおいデジタルデトックスにもなる。 そんななか、及川春菜の作品を観ると、自然や草花やデジタルや現実やら、それらが混じった上で優しくリアルに馴染んで映った。8ビットが優しさに見えてきた。 及川が当初吊るそうとしたモザイク状の大きなガラスを、北軽の自然の前に吊るしてもらって、眺めてみたくなった。
モザイクガラス越しに華やかな造花が映し出されており、作者の及川さんも意図している通り、テクノロジーを使用した表現ではなくて、アナログの技術で多彩な見え方を実現している。様々な角度と時間によって表情を変え、また、周囲の景観をも取り込み、正面性のない作品はまさに彫刻的な要素だ。人の視覚における錯覚効果を呼び起こして、脳や感覚に心地良い刺激を与えられる作品であり、鑑賞者は身体を使って自分だけの視点を見つけ出して欲しい。