元々演劇活動をしていた髙倉による、誰しもが持つ「わたしの物語」を、
自分の中に渦巻く様々な選択可能性や役割、立場など多面的な
「わたしたち」によって表現する、
一人芝居をモチーフとした写真作品シリーズ。
1980年、埼玉県生まれ、東京都在住。立教大学法学部法学科卒業。
演者として舞台活動をした後、写真制作をはじめる。
同時にデザインにも携わり現在は、写真作家としての活動を主軸に、
様々な視点から幅広く制作を行っている。
2025年5月31日-6月28日 髙倉大輔個展 『omni prism』 TEZUKAYAMA GALLERY / 大阪
桜が咲く季節、人々は冬を抜け新たな希望を探して歩み始めます。
この作品の中には黄色いセータを着た同一女性が多数登場しています。彼女は時に悩み、時に人を励ましたりしながら少しずつでも人生の坂道を登ろうとしています。そして様々な人々が自分の人生の中を通り抜けていきます。それは過去の自分かも知れないし、どこかで出会った不特定多数であるかも知れない。一枚の画面の中に、悩みつつも、より目標に向かって生きていく私たちの人生の縮図が語られているのです。
団地と桜と石垣、というリアリティのある舞台が新鮮でした。
絶対に見たことがある光景なのに、とても美しく見えます。
なんでだろうと考えてみると、まず構図が素敵です。画面全体に張り巡らされたジグザグを目で追っているうちに、そこに配置された様々なポーズの女性の動きを、パラパラ漫画のように脳内で映像として合成することができます。
そして画面の中で様々な階調やコントラストが存在しているのも、この写真の豊かさに寄与していると思います。画面上方は団地を背景にした桜という、白っぽい中での繊細な階調です。それがジグザグに乗って画面の下方に視線を移すに連れて明暗が逆転していき、暗い背景の中で女性の白いシルエットが浮き出す強いコントラストになっていきます。
そんなふうに画面の中の散歩を楽しんでいるうちに、過去の自分も未来の自分も同時に引き連れて、迷いながらも勇敢にそして淡々と歩いていく彼女に、感情移入してしまいます。
春は迷いの季節であり門出の季節でもあります。こんな気持ちで、誰もが春を迎えているのかもしれません。
写真は目で見たものを写す表現手段だという概念だけでは語れない作品と感じました。
構図の魅力もさることながら、被写体が自身の人生を考え、迷い、時に立ち止まり、前に進もうとする姿を、ファインダーを通して応援しているかのような優しい一枚で目を惹きました。新しい一歩を踏み出す時、後悔や迷いも含めて正解で、そして愛しいものだという事は、その瞬間には気づけないものかもしれません。さまざまな自分と向き合った時間は決して無駄ではなく、未来に待つ“自分自身の正解”に繋がっていくという事を教えてくれるかのようです。この春、新しい一歩を踏み出す全ての人へ、心からのエールを送りたくなる作品です。